2016年4月14日から発生した熊本地震は多くの被害を出していますが、4月20日現在で余震がすでに700回を超えています。
熊本県内の避難所で過されている方は4月19日の時点で11万人を超えており、車中で寝泊まりを続けている方もかなりの数だと言われています。
多くの方が車中泊をする理由には、余震が連日続いているために「建物の中では安心できない」、「集団生活をするよりも精神的に楽」などがあるでしょう。
しかし、車中泊をしていた51歳の女性が19日に倒れ、病院に搬送された後にお亡なりになりました。
死因は、いわゆる「エコノミークラス症候群」だったそうですが、車中泊が原因なのでしょうか?
今回は、「エコノミークラス症候群」について、その原因と初期症状、予防法などついてまとめてみました。
目次
エコノミークラス症候群とは

「エコノミークラス症候群」とは、その名前の通り「航空機のエコノミークラス」の狭いシートで長時間座っているときなどに、血液の循環が悪くなって、血管(静脈)の中で血液凝固が起こってしまう病気のことを言います。
「エコノミークラス症候群」という名前は俗にいう通称であって、実際の病名は、「静脈血栓塞栓症」(じょうみゃくけっせんそくせんしょう)と呼ばれます。
血栓症とは、血管の中に血の固まりができて詰まることによって、血液の流れをせき止めてしまう症状のことです。
そして、血栓ができる場所によって、脳や心臓などに梗塞(こうそく)を引き起こしてしまう原因にもなります。
梗塞とは、血管が詰まることによって血液の流れが悪くなった結果、細胞が酸欠状態になって死んでしまう(=壊死(えし)する)症状です。
血栓の通り道
「エコノミークラス症候群」は、「深部静脈血栓症」と呼ばれる足の深い部分の静脈に血栓ができ、それがあるタイミングではがれて、静脈(=心臓に戻る血液を運ぶ血管)を通って心臓にまで到達します。
その結果、肺にある血管を詰まらせる、「肺血栓塞栓症」(はいけっせんそくせんしょう)を起こしてしまうのです。
「エコノミークラス症候群」ではがれた血栓の通り道は次のような経路をたどります。
「ふくらはぎの静脈」⇒「大静脈」⇒「心臓」⇒「肺動脈」が詰まってしまう
この病気で一番気をつけたいところは、血栓の大元になる「ふくらはぎ」です。
ふくらはぎは、第2の心臓とも呼ばれ、酸素を消費した血液(静脈血)を心臓に送りかえすポンプの役割を持っています。
エコノミークラス症候群の原因

この病気の主な原因(血栓ができる原因)は2つあります。
- 静脈血の鬱帯(うったい):静脈を流れる血液が滞ること
- 血液凝固(けつえきぎょうこ)の亢進:血液が固まりやすくなること
つまり、「血液の流れが悪い」+「血液が固まりやすい」の2つの条件が重なった時が、最も危険だということですね。
これら2つの原因を引き起こすには、次のような状態が考えられます。
長時間同じ姿勢を続ける
長時間の間、椅子に座ったり、狭い場所で寝ていたりすると、足が動かない状態が続きます。
これは、血液の流を悪くして上記で説明した原因である鬱滞の状態になってしまいます。
具体的には・・・
- 飛行機での長時間のフライト
- 高速バスや夜行バスでの長時間移動
- 新幹線での長時間移動
- 長期の入院生活
- 長時間のテレビゲーム(ゲーマー)
- 長距離の運転手
などがあります。
エコノミークラス症候群と呼びますが、仮にビジネスクラスやグリーン車だとしても状態はほとんど変わりません。
震災によって増えた車中泊も、車のシートの上では寝返りもうてませんので、長時間同じ姿勢をとってしまう状態になってしまいます。
実際に、新潟県中越地震(2004年)が起こった時には、車中泊で避難生活を続けていた人々のエコノミークラス症候群が原因として疑われる死亡例が増えました。
今回の熊本地震でも、車中泊によるエコノミークラス症候群が原因とみられる死亡者が出ています。
また、女性の場合は、妊娠や卵巣腫瘍などによっても下腹部の静脈が圧迫されて血液の鬱滞を起こすことがあります。
血管の傷害
血液には異物が侵入していると凝固する性質があります。
そして、以下のようなことが原因となって血管が傷ついて異物が侵入して血液が凝固しやすくなります。
- ケガで骨折
- 手術を受ける
- 輸血を受ける
- 点滴を受ける
上記のようなケガや処置を受けている場合は、血栓ができやすくなっていますので注意が必要です。
今回の震災でも家屋倒壊などによって骨折をされている方は注意が必要です。
血栓ができやすい体質
血栓ができやすい体質には先天性のものと後天性のものがあります。
先天的な原因としては、血液を凝固させない働きを持つプロテイン欠損症などがあります。
後天的な原因には、全身性エリテマトーデス(SLE)やベーチェット病などがあります。
初期症状は

深部静脈血栓症を起こして血管の中に血栓ができている状態では、次のような初期症状がみられることがあります。
- 足のしびれや痛み
- 足のむくみ(浮腫)
- 皮膚の色が変色(褐色)
上記のような症状が足にみられることが多いですが、無症状な時もあります。
また、深部静脈血栓症は血管の構造上、左側の足に起きやすいと言われています。
そして、長時間同じ姿勢を取った後の急激な動作などが原因となって血栓がはがれて、静脈血栓塞栓症、いわゆる「エコノミークラス症候群」引き起こしてしまうと、胸痛や呼吸困難などの症状を引き起こします。
また、その他の症状としては、
- 冷や汗がでる
- 動悸や息切れ
- チアノーゼ(皮膚が青紫色になる)
- 静脈怒脹(じょうみゃくどちょう=静脈がふくれあがる)
- 血圧低下
- 意識消失(気を失う)
などがあり、最悪の場合、心肺停止状態となって突然死する場合もあります。
エコノミークラス症候群の予防法とは

このように、エコノミークラス症候群は突然死も起こしてしまう恐ろしい病気ですので、発症前の予防対策が非常に大切です。
予防としては以下のような方法が推奨されています。
- 乗り物の中では長時間同じ姿勢を避けるように意識して足を動かすようにする。
- ふくらはぎを自分で時々揉んだり、ストレッチする*。
- 弾性ストッキング*を使用する。
- 脱水症状を避けるために適度な水分を摂取する。
- アルコールやカフェイン飲料は利尿作用があるので避ける。
- 震災時の避難所で可能であれば簡易ベッドを使用する。
- 血栓症のリスクが高い人は予防的に抗凝固療法(ワーファリン)や抗血小板療法(アスピリン)を行なう。
*車中泊での一番簡単なふくらはぎのストレッチ法は、30秒くらいダッシュボードの上に両足を乗っけることです。そうすると足の位置が胴体より高くなり血行も良くなります!

*弾性ストキングとは特殊なストッキングで、装着すると足全体を均等に圧迫して足の静脈の血液の流れを良くします。
2004年以降、日本では肺血栓塞栓症を発症する危険性が高く身体拘束が行わ れている患者さんに対し、予防を目的として必要な機器や材料を用いて計画的 な医学管理を行った場合には、肺血栓塞栓予防管理料として保険の適応がされています。(静脈血栓予防マニュアル を参照)
エコノミークラス症候群の発症を防ぐためには、日ごろの健康管理・長時間同じ姿勢を続けない・足やふくらはぎを動かしたり、ストレッチしたりしてメンテナンスすることがが大切ですね。
もし、体質的な問題がある方は循環器系などの専門の医療機関で予防的な治療を受けられることをおすすめします。


*心肺系の病気に関しては、次の記事もご参考ください。
➡【虚血性心疾患(心不全)】の原因と症状!その前兆と予防法とは?
➡【誤嚥(ごえん)性肺炎】の症状と原因、死亡率は?看護と治療・予防法とは?
*熊本地震に関しての詳細は、次の記事をご参考ください。
➡【中央構造線】熊本・大分地震は南海トラフ巨大地震の序章なのか?