日本人の死因は長い間、第1位が「悪性新生物(がん)」、第2位が心疾患、第3位が「脳血管疾患」となっていましたが、ここ数年で第3位に「肺炎」が浮上してきました。
「肺炎」は、死亡する人の9割以上が高齢者だといわれていますので、これは高齢化社会の影響が大きいのではないでしょうか?
この高齢者に多い「肺炎」には「誤嚥性肺炎」というタイプが多く、別名「老人性肺炎」と呼ばれています。
また、4月14日に起きた熊本地震によって現在もなお多くの高齢者が避難生活を送っているため、「誤嚥性肺炎」発症のリスクが問題視されています。
そこで今回は、「誤嚥性肺炎」とは何か?その原因と症状と死亡率、治療法と看護・介護のポイント、予防法について分かりやすくまとめてみました。
目次
誤嚥(ごえん)性肺炎とは

「誤嚥性肺炎」とは、肺炎の原因となる細菌が、飲食物や唾液、胃液が一緒になって肺に流れ込んで発症する肺炎のことです。
この病気は、ヒトが食べ物や飲みものを飲み込む動作である、「嚥下(えんげ)」に深く関係しています。
食べ物や飲み物を飲み込む動作が正しく働かないことを「嚥下障害」といいますが、食べ物や飲み物が誤って食道ではなく、気管に入ってしまうことを「誤嚥(ごえん)」といいます。
つまり、誤嚥によって肺炎の原因菌が、気管を通って肺に侵入して罹る肺炎のことが「誤嚥性肺炎」と呼ばれるのです。
高齢者の発症する肺炎のほとんどは「誤嚥性肺炎」だといわれていますが、具体的には、70歳以上の70%以上、90歳以上の実に95%以上が「誤嚥性肺炎」だといわれています。
誤嚥性肺炎の死亡率は?
医療や医薬品の進歩と共に肺炎は人類にとって不治の病ではなくなりました。
しかし、平成23年以降、日本人の死因の第3位は「肺炎」になり、平成27年には12万3000人もの人が肺炎で亡くなっています。
つまり、平成27年の全死亡数が130万2000人なので、死亡者全体の約9.4%が肺炎で亡くなったことになります。
また、平成27年に死亡した人の95%は65歳以上だといわれています。
あるデータによれば、65歳以上の高齢者で肺炎が原因による死亡の96%が「誤嚥性肺炎」だったということです。
肺炎の発症は高齢者に多く、そのほとんどが「誤嚥性肺炎」だということを考えると、「誤嚥性肺炎」にかかった人の死亡率は極めて高いことがうかがえます。
では、次に誤嚥性肺炎になる原因について説明しますね。
誤嚥性肺炎の原因

私たちは、生きていくために呼吸し、水分や食物を摂取し続ける必要があります。
この酸素と飲食物を取り入れる入口が、口と喉(のど)ですよね。
喉には、空気を取り入れる「気管」と、食べ物や飲み物を摂取する「食道」の2本の管が別々に隣接して存在しています。
そして、空気⇒「気管」と飲食物⇒「食道」の振り分けは、脳神経から来る指令によって行われていますが、加齢(老化)が進むと、脳神経の機能がうまく働かなくなっていく傾向があります。
加齢による嚥下障害
高齢者になると、虫歯や歯槽膿漏(しそうのうろう)によって大切な歯が欠損しやすくなり、咀嚼(そしゃく=よく噛んで食べる)機能も低下します。
また、食べ物をのどに送る舌の運動機能の低下や唾液の分泌量の低下を起こして嚥下障害を起こりやすくなり、誤嚥を起こすようになります。
しかし、加齢の影響には個人差があるので、高齢者になっても嚥下障害を起こさない人もいます。
高齢者や病気で体力が弱っている人は、就寝時に誤嚥を起こすことが多い傾向があります。
嚥下障害を起こす病気
また、高齢者になると多くの嚥下障害を起こす病気にかかる確率も高くなります。
嚥下障害を起こす原因となる病気には次のようなものがあります。
- 脳梗塞
- 脳血管障害
- パーキンソン病
- アルツハイマー
- 脳腫瘍
上記のような嚥下障害を起こす病気は、高齢になるほど発症しやすく、他の病気とも合併することが多くなります。
その中でも特に認知症が進むと多くの合併症が見られ、誤嚥性肺炎の原因となる嚥下障害も多くなります。
しかし、嚥下障害を起こして誤嚥をする人が全て誤嚥性肺炎になるわけではありません。
比較的健康な人でも誤嚥を起こしてむせることがありますが、免疫機能がしっかりしている場合は肺炎を発症することはほぼありません。
さまざまな病気が合併することにより免疫力が低下した高齢者が誤嚥を起こした場合が一番の問題になるのです。
特に高齢者が誤嚥性肺炎を発症しやすいタイミングは、睡眠時と食事中の誤嚥です。
また、誤嚥性肺炎は何度も再発を繰り返す傾向があり、それによって耐性菌が発生し、従来の抗菌薬が効かなくなることがあります。
誤嚥性肺炎の症状
「誤嚥性肺炎」は、肺炎の一種なので典型的な症状として次の3つがあります。
- せき
- 痰(たん)
- 発熱
しかし、高齢者の場合はこのような典型的な症状が現れないことが多くありますので誤嚥性肺炎の発症を見逃さないためにも注意が必要です。
せき、痰、発熱などの典型的な症状を訴えることがなくても、次のような症状が見られるときは誤嚥性肺炎の疑いがあります。
- 最近何か元気がない
- 昼間にずっと眠気が襲う
- 以前より食事に時間がかかる
- 食事中にむせ込む
- だ液が飲み込めない
- いつも喉がゴロゴロ鳴る
- 痰の色が汚くなった
- 息切れが多くなった
嚥下障害がない人でも上記のような症状が見られる場合は、注意が必要です。
上記のような何か以前と違った症状が見られる場合は、早めに病院に行って受診されることをおすすめします。
誤嚥性肺炎の治療法

肺炎の原因となる菌にはさまざまな種類がありますので、治療で使用する抗生剤などの薬も原因菌に対応したものを使用します。
誤嚥性肺炎の原因となる菌の多くは嫌気性菌(酸素のないところ繁殖する菌)と呼ばれる種類なので、治療には嫌気性菌対応の抗生剤(β―ラクタマーゼ阻害薬配合ペニシリン系薬)が使用されます。
また、呼吸不全(肺への酸素の取り入れがうまくできていない)の症状がみられる場合には酸素吸入も行なわれます。
誤嚥性肺炎の一番の特徴としては患者さんが嚥下障害を起こしている場合が多く、何度も再発を起こしてしまうことです。
くり返して発症することによって同じ抗生剤が効かなくなる耐性菌が出来てしまうことが、投薬治療を困難にしてしまいます。
そのため、一番の原因となる誤嚥を起こさないように家族や介護を行っている周りの人の協力が大変重要にになります。
誤嚥性肺炎の看護・介護のポイント
誤嚥性肺炎の患者さんへの看護や介護で一番気をつけなければいけないのは食事の時です。
以下のようなことが看護する上で大切なポイントになります。
- 食事をとりやすい環境づくり
- ずっと寝たきりの状態を避ける
- 食べるときには必ず上体を起こしてあげる
- 問題があればすぐに食事を吐き出させる準備
- 食後、口に食べ物が残っていないかチェックをする
- 口腔内を清潔に保つための食後の歯磨き習慣
高齢者は嚥下や咀嚼がうまくできないので口の中に食べ物をため込んでしまう傾向があるので、とにかく誤嚥を起こさせないような食事をする時の環境づくりと、口の中をまめにチェックして口腔内を清潔に保つことの2点が重要です。
誤嚥性肺炎の予防法

誤嚥性肺炎を効果的に予防する方法をご紹介します。
誤嚥を起こしやすい習慣の改善
予防法で最優先することは、誤嚥性肺炎になるリスクの回避を行うです。
つまり、具体的には以下のような誤嚥を起こしやすい習慣を改善することです。
- 寝酒の習慣
- 食後にすぐに寝転がる習慣
- 就寝時間の直前に食べる習慣
- カウチに寝そべって食べる習慣
特に寝酒の習慣がある人は要注意です。
お酒に酔った状態で寝てしまうと胃の中に残った食物が逆流して、誤嚥しやすくなります。
よく噛んでゆっくり食べる
食事の時はよく噛んで、ゆっくり食べるようにしましょう。
早食いやドカ食いは誤嚥を起こしやすくなるのでとっても危険です。
短時間で一度にたくさん食物を口の中に入れると、特に誤嚥を起こしやすくなるので、意識して改善しましょう。
虫歯や歯周病の予防
虫歯や歯周病にかかっていると、口腔内にさまざまな細菌が繁殖しやすい状態になっています。
そのため細菌を含む唾液を誤嚥すると肺炎を起こしてしまうことがあります。
口腔内のケア(虫歯や歯周病の治療・歯磨きやうがいの習慣)は誤嚥性肺炎を予防する上で欠かせないことです。
歯磨きをするときは、3分間はかけて歯全体を奇麗に磨くようにしましょう。
*熊本地震の震災地では体育館などでの集団生活を送っているために、どうしても口腔ケアをおこたってしまいがちなりますので、高齢者の方々は特に誤嚥性肺炎の発症のリクスを回避するためにも注意が必要です。
口腔周辺の機能の改善
口腔周辺(口を中心とした部分)、つまり、首・肩・口・舌などを良く動かす習慣をつければ、口腔周辺の機能の改善につながり、誤嚥を起こしにくくなります。
以下の運動を行なえば、口周りの機能の改善に効果的です。
- 首の運動(左右に倒す・前後に倒す・首を左右に回す)
- 肩の運動(上下運動・前後運動・回す)
- 舌の運動(舌を突き出す・突き出して下に垂らしたり上げたりする)
- 口の運動(口を大きく開く、固く閉じる)
- 発音練習(口を大きく開いて、大きな声でカ・キ・ク・ケ・コと唱える)
以上のように、誤嚥性肺炎の予防法として、食習慣の改善・口腔内のケア・運動による口腔周辺の機能改善を3本の柱とすると大変効果的です。
*心肺系の病気に関しては、次の記事もご参考ください。
記事:【虚血性心疾患(心不全)】の原因と症状!その前兆と予防法とは?
*誤嚥性肺炎と同様に震災地で問題視されている病気に関しては、次の記事をご参考ください。
記事:【エコノミークラス症候群対策】初期症状と予防法は?車中泊が原因?