日本人にとって正月は1年の内で一番お餅を食べる機会が多くなる時期だと思いますが、お餅といえばパンと同様に非常にカビの生えやすい食品ですよね。
昔から、「お餅のカビは食べても大丈夫」という風に唱えられてきましたが、果たしてそれは本当なのでしょうか?
そこで今回は、カビの性質やお餅につきやすいカビの種類と安全性、お餅のカビの効果的な防止対策・保存法などについて分かりやすくまとめてみました。
目次
「カビ」ってそもそも何者なの?

冷蔵庫に買い置きしていたパンやお饅頭、柑橘系の果物などを食べようと思ったら、カビが生えててショック!!という経験は誰にでもあると思います。
日本の気候は温暖多湿でおまけに梅雨があるので、カビは食品だけでなく衣類や革製品、壁紙、お風呂のタイルの目地、畳などいたるところで発生します。
カビの仲間とは?
カビという名前は俗称でキノコや酵母と同じ「真菌」または「菌類」に分類されます。
その中でもカビは「糸状菌」と呼ばれ、菌糸の先端部(下図の赤〇で囲った部分)が伸長して「胞子」を形成ししながら繁殖します。
《糸状菌の顕微鏡拡大写真》
「真菌」はよく「細菌」の一種だと思われることが多いですが、ヒトや動物と同じく膜に包まれた細胞の核の中にDNAを持つ「真核生物」に分類されます、そういう意味では「真菌」は「細菌」よりも進化した生物だと言えるでしょう。
カビがこの世界から無くなったら?
「カビ」って人間が生活していく上で非常にうっとおしく邪魔者な扱いを受けていますよね、見た目もいかにも不潔な感じですし。
しかし、もしカビがこの地球上から無くなってしまったら、間違いなく人類は滅んでしまうでしょう・・・
なぜなら、カビは生物の死骸や枯れ葉、角質、排泄物などの有機物を無機物に分解する働きを持っており、もしカビが地球上から無くなったら、この世界はあらゆる有機物のゴミ溜めになってしまい、生態系も破壊されてしまうからです。
お餅のカビの種類・性質・安全性は?
下のお餅のカビの写真を見ると赤・青・黒の色をしたカビが確認できますよね・・・これはお餅には様々な種類のカビが発生することを意味します。

お餅に発生するカビには、確認されているだけでも20種類以上あると言われてますが、以下が代表的なものです。
- アオカビ
- コウジカビ
- クロカビ
- カワキコウジカビ
- アカカビ
では、上記の種類のカビの特徴を説明しますね・・・
青カビ(ペニシリウム)
コウジカビ(アスペルギルス)と並んで日常的によく見られるカビの種類で、アオカビには約150もの菌種があり、餅やパン、柑橘系の果物によく発生します。
青カビには耐寒性と耐乾性の両方があり、冷蔵庫の中でよく発生するカビとして有名です・・・
アオカビの中でも「ペニシリウム・クリソゲナム」と呼ばれる種類は、「ペニシリン(抗生物質)」の原料として有名ですが、「ペニシリウム・シトナリム」など、私たちにとって有害な種類もあります。
「ペニシリウム・シトナリム」は、腎臓にダメージを与える「シトリニン」を産生します。
また、青カビの中には発がん性のあるカビ毒である「マイコトキシン」を産生するものもあります。
コウジカビ(アスペルギルス)
コウジカビは、別名・麴菌(こうじきん・きくきん)とも呼ばれ、古くから清酒や醤油の醸造に利用されてきました。
一方で、コウジカビには感染病の原因となるものや「マイコトキシン」を産生するものがあり、必ずしも安全とは言えません。
また、コウジカビには、カビ毒の中でもダイオキシンの10倍も毒性が高く、発がん性もある「アフラトキシン」を産生する種類もあります(輸入ピーナッツなどに含まれることがある)。
コウジカビには、青カビと同様に耐乾性がありますが、耐冷性はありません。
黒カビ(クラドスポリウム)
クロカビとは、黒っぽい色で生えてくるカビの仲間の総称で、コウジカビの一種です。
好湿性で結露の多いところに発生し、壁にできるシミの多くはこのカビが原因となっています。
また、空気中に漂っているカビの中では最も割合が高くエアコンの中でも多く発生しています。
カワキコウジカビ(ユーロチウム)
その名の通り耐乾性のあるカビで、糖度や塩気の高いお菓子類やジャム、佃煮(つくだに)や穀類、わかめなどの水産の乾物などに発生します。
現在のところ、この種類に毒性の強いカビ毒の産生は報告されていません
赤カビ(フザリウム)
赤カビは、その名の通り、赤やピンク色が特徴で、浴室のぬめりやバスタオルなどにもよく発生します。
食品では冷蔵庫に放置した瓶詰や古いご飯などによく発生します。
赤カビのカビ毒(トリコセテン)が人体に入ると嘔吐や 下痢の症状を引き起こし、アレルゲンにもなります。
お餅のカビは食べても大丈夫なのか?
上記で説明したように、お餅に繁殖するカビの種類は様々であり、「カビ毒」の危険性を考えると、「カビの生えたお餅は食べない方が良い」と言えますよ・・・
カビ毒とは?
「カビ毒」とは、カビの代謝によって産生される物質の中で「人や動物に有害な作用をもたらす化学物質」の総称で、現在300種類以上が存在すると報告されています。
日本でも、戦後に東南アジアなどの輸入米に強度の肝臓障害を引き起こす強いカビ毒が発見されて(黄変米事件)以来、カビ毒の研究が盛んになりました。
また、イギリスでは1960年に飼料に含まれていたカビ毒で10万羽以上の七面鳥が肝臓障害を起こして死ぬ事件がありました。
カビが生えた餅を食べない方が良い理由は以下の3つにまとめられます。
- カビ毒には発がん性が高いものがある。
- カビ毒は下痢やおう吐などの食中毒症状を起こす。
- カビはアレルギーの原因(アレルゲン)にもなる。
では、お餅についたカビを取り除けば大丈夫?
カビは表面の見える部分(胞子)だけでなく、菌糸の部分は、木の根っこのようにお餅の内部に深く入り込んでいます。
つまり、カビの見える表面の部分だけそぎ落としても菌糸は残りますので安全とは言えないでしょう。
カビを取り除きたいのであれば、表面だけでなく餅の部分も深く(3~4 cmも)取り除かなくてはいけません。
しかし、大きな鏡もちならともかく、小さなお餅であれば数センチも取り除いたら食べる部分はほとんど残りませんよね・・・
餅のカビは煮たり焼いたり揚げたりしたら大丈夫?
ほとんどのカビは、60℃で10分程度の加熱処理によって死滅すると言われてます。
耐熱性のあるカビ(耐熱性真菌)では、75℃で30分の加熱殺菌でも生存し、耐熱性の強いものでは100℃で30分間の加熱処理でも生存します。
しかし、問題なのはカビ本体よりもカビの産生する「カビ毒」です・・・
カビ毒もカビと同様に加熱すれば分解できると思われがちですが、これは大きな間違いです。
100~210℃の温度で60分間加熱しても分解されることはありませんし、油で揚げても、毒の90%はお餅の中に残り、残りの10%は油の中に流れて溶け込むだけです。
つまり、家庭で出来る調理方法程度では「カビ毒」を取り除くことは出来ないということですね。
お餅に生えるカビの防止や保存の方法は?
結論としては、先ずカビの生えたお餅は食べない方が良いということが大前提になります・・・
つまり、カビの生えたお餅の食べ方を考えるよりも、お餅にカビが生えないように保存することが一番賢明な方法だと言えるでしょう。
それでは、お餅のカビを効果的に簡単に防ぐ3つの方法を紹介しますね。
冷凍保存法
これが一番簡単で効果的な方法で、お餅を手に入れたら早めに保存しましょう。
0℃以下の環境ではカビは繁殖できませんし、3~4ヶ月程度の長期保存が可能です。
準備するものは2つだけ・・・
- サランラップ
- Zipロック
手順も以下の2つだけ・・・
- 先ず、お餅を一個ずつサランラップでタイトに包みます。
- 次に、それらを冷凍用Zipロックに入れ空気を抜いて冷凍庫に保存する。
食べるときは、自然解凍か水に少しつけた後に電子レンジて半解凍して、ガスオーブンかオーブントースターなどで焼くと美味しく食べられます。
水餅保存法
これは昔ながらの簡単な保存方法で、1カ月程度は有効です。
カビが繁殖するためには酸素が必要なので、水の中に入れて酸素をシャットアウトするという原理です。
準備するものは、ボールと水と蓋(ラップでもよい)だけで、お餅をそのまま水を入れたボールの中に入れて保存するだけです(お餅が全部水に浸るようにしましょう)。
その後、ボールを冷蔵庫にいれるか冷暗所に置いて水は毎日入れ換えましょう
和からし(わさび)保存
和からしやわさびには鼻にツーンとくる辛味成分があります。
この揮発性のある辛味成分は、アリル芥子油(アリルイソチオシアネート)と呼ばれ、菌の繁殖を抑える作用(抗菌作用)がありますのでカビの繁殖も防ぐ効果があります。
お寿司や刺身にわさびをつけるのも昔の人の食中毒予防のための生活の知恵だったのでしょう。
この方法は、1~2週間程度有効で、わさびや和からしを入れ替えれば1カ月くらいは大丈夫だと思います。
和からしやわさびはチューブよりも粉末状の方がコストが安くつきます。水は少なめで練ると良いでしょう。
準備するものはタッパーなどの密閉できる容器、またはお皿とサランラップとわさびか和からしです。
容器やお皿の四方や中心部に和からしかわさびを少量ずつ盛ってそこにお餅を入れて蓋またはサランラップをかけて冷蔵庫または冷暗所に保存するだけです。
以上、どれも簡単でコストもかからない方法ですが、長期保存にはやっぱり冷凍保存が一番だと思います、是非試してみてくださいね・・・