2017年6月22日夜、市川海老蔵さんの妻で元フリーキャスターの小林麻央さんが「進行性乳がん」で2年半の闘病生活の末、34歳の若さでお亡くなりになりました。
先ずは小林麻央さんのご冥福をお祈り申し上げます。小林さんのブログでの前向きな闘病報告は多くの方への励みにもなったと思います。
「乳がん」は、近年、日本人成人女性の国民的な病気となり、12人に1人という高い割合で発症する病気といわれていますが、今回は一般的な乳がんと進行性乳がんとの違い、その初期症状と検査法、症状の写真や画像、治療法、そして、予後、進行ステージと生存率の因果関係などついてまとめてみました。
目次
進行性(炎症性)乳がんとは?
「進行性乳がん」とは、その名の通り、乳がんの*「ステージ」が進行している状態で、具体的には以下2つの「乳がんのステージ」のことを言います。
- 局所進行性乳がん「ステージ3」
- 転移性乳がん「ステージ4」
*乳がんの「ステージ」(病状進行の程度)については、後述します。
そして、「進行性乳がん」の1つの型として、「炎症性乳がん」があります。
この「炎症性乳がん」は、*罹患率(りかんりつ)が、乳がん全体の約1~4%という珍しいタイプです。
*罹患率=一定の期間内において、国や地方の人口に対する、特定の病気にかかっている人の割合(発生頻度)のこと。
2015年の日本における乳がんの罹患者数(女性)は、約9万人と言われていますので、「炎症性乳がん」を発症する女性は、年間で900~3600人程度いると考えられています。
このような従来の「乳がん」と違うタイプである「炎症性乳がん」は、1814年にCharles Bell(チャールズ・ベル)によって初めて症例が記載されました。
しかし、「炎症性乳がん」という病名が使われ始めたのは、1924年にJames Ewing(ジェームズ・ユーイング)の提案を受け、Lee (リー)とTannebaum(タンネバウム)がIBC(inflammatory breast cancer)という病名を提出した時からです。
これは、実に、Bellの症例記載から110年も経た後のことでした。
「進行性(炎症性)乳がん」とは、乳がんの中でも急速にがん細胞が進行し、予後が非常に悪く、治療が難しい病気として知られています。
世界的に見ると、「炎症性乳がん」は、アフリカ系アメリカ人の女性の発症する確率が高く、発症年齢が*一般的な「乳がん」よりも早い傾向があります。
このように、「一般の乳がん」より若い20~30代で発症する乳がんは、「若年性乳がん」とも呼ばれています。
日本乳癌学会の統計によると、「若年性乳がん」の乳がん全体の約2.7%と稀なケースになります。
*一般的な「乳がん」は40~50歳の間に最も高い罹患率を示します。
「炎症性乳がん」の平均発症年齢は、一般的な「乳がん」と同様に40~50代が最も多い傾向がありますが、罹患者全体の約1/3は閉経前に発症しています。
一方、妊娠授乳期の「炎症性乳がん」の発症率は、「炎症性乳がん」全体の約2%と低い傾向です。
また、「炎症性乳がん」は、発展途上国において罹患率が高い傾向があります。
「進行性乳がん」の中で一番多いタイプは「ホルモン受容体陽性乳がん」です。
乳がんの「ステージ」とは
乳がんの「ステージ」は以下のように分類されています。
- 「ステージ0」:非浸潤(ひしんじゅん)がん=乳管内に発生したがん細胞が乳管内にとどまっている状態。
- 「ステージ1」:がん腫瘍の大きさが、2cm以下の浸潤がんでリンパ節への転移がない状態。
- 「ステージ2」:「ステージ1」と「ステージ3」の中間の状態。
- 「ステージ3」:がん腫瘍の大きさが5cm以上で、リンパ節転移が確認されるか、(腫瘍の大きさには関係なく)リンパ節への転移が4箇所以上確認された状態。
- 「ステージ4」:(腫瘍やリンパ節転移の個数に関係なく)遠隔部位への転移(肺、肝臓、骨などへの)が確認された状態。
「進行性乳がん」の基準の1つとなる、局所進行性乳がん「ステージ3」は、腫瘍によるしこりの大きさ(径)よりも、がんの進行度合いによって判断されます。
がんの進行度合いについて具体的に言えば、「がん細胞が胸の真ん中にある胸骨の横側のリンパ節や乳房の広範囲まで増殖している状態」です。
もう1つの基準とされる、移転性乳がん「ステージ4」は、鎖骨上のリンパ節、乳房近くにある肺や肝臓などの臓器、さらに胸部から離れた場所、例えば脳などに転移している状態です。
がんの転移については、乳がんに関わらず、早期発見の機会を見逃してしまうことによって、血液やリンパの流れに沿って転移してしまいます。
「進行性乳がん」の多くは、ホルモン受容体陽性(HR)かヒト上皮成長因子受容体2陽性(HER2)の2タイプで、「進行性乳がん」の中で一番多いタイプは、「ホルモン受容体陽性の乳がん」です。
また、「ホルモン受容体陽性の乳がん」は、乳がん細胞内の受容体が女性ホルモンと結合することで、細胞分裂が促進され、がん細胞の増殖が非常に早い傾向があります。
進行性(炎症性)乳がんの初期症状(写真・画像)

炎症性乳がん(皮膚の赤い腫れ)

炎症性乳がん(橙皮状皮膚)
《NewHealthAdvisorのHPより引用》
「炎症性乳がん」は、おもに乳頭周辺に発症し、確認できる「しこり」もなく、皮膚に赤みや腫れが見られるのが特徴です。
「炎症性乳がん」と似たような症状を持つ病気としては、妊娠授乳期に発症しやすい「急性乳腺炎」があります。
「炎症性乳がん」の典型的な初期症状は以下の通りです。
- 乳房に熱感(温かく感じる)がある。
- 乳房に痛みを感じる。
- 急速に大きく厚く乳房の外観が変化する。
- 乳頭とその周辺の皮膚が赤く腫れ、皮膚の毛穴が目立ち、オレンジの皮のぶつぶつのような外観になる=橙皮状皮膚(とうひじょうひふ)。
- 乳頭がへこむ(陥没乳頭)。
- 腕の下や鎖骨の周りのリンパ節が腫れる。
「炎症性乳がん」は、一般的な乳がんと違って「しこり」が形成されませんので、通常の乳がんのセルフチェックで触診しても分からない場合がほとんどです。
また、「炎症性乳がん」には「しこり」が無いので、マンモグラフィーで検診しても初期の段階では画像でキャッチできない可能性もあります。
上記のような症状を感じたら、ただちに専門医にご相談されることをおすすめします。
進行性(炎症性)乳がんの検査法(画像診断法)

炎症性乳がんのサーモグラフィー画像
進行性(炎症性)乳がんの検査法として、現状では以下のような方法が用いられています。
- マンモグラフィー
- 超音波
- CT
- MRI
- PET
- 生体サンプル検査
*「乳がん」の検査と原因に関しては次の記事もご参考ください!
記事➡牛白血病ウイルスと乳がんは強く関連!牛乳は危険?予防法は?
進行性(炎症性)乳がんの初期治療法の指標

乳がんの初期治療への指針が提示される、St. Gallen Conferences(サンクトガレン会議)と呼ばれる会議が、スイスの古都であるSt. Gallenで2年に1回開催されています。
この会議の最終日には、世界各国から参加してくる、「乳がん治療の専門家」によって行われるコンセンサス会議で、新たな治療指針が提案されます。
ザンクトガレン会議で出された「コンセンサス」に基づく治療方針は、「乳がん」の初期治療に対する世界共通の考え方になります。
「乳がん」には、様々なタイプがあり、それによって進行速度や再発のリスクが異なるので、治療方針もタイプ別に考えられます。
「乳がん」のタイプは、5つのサブタイプに分類され、このサブタイプに適した薬物療法(化学療法、ホルモン療法、抗HER2療法)のいずれかが選択、または併用され、それに基づいた治療方針が決定されます。
炎症性乳がん「ステージ」別の進行度・治療法・生存率は?
では最後に、乳がんの「ステージ」ごとによる進行度・治療法・生存率(2004年の日本乳癌学会症例報告に基づく)を見てみましょう。
「ステージ0」
- 進行度:超早期
- 治療法:手術または放射線療法(薬物療法は適応されないケースが多い。)
- 5年後の生存率:97.58%
「ステージ1」
- 進行度:早期
- 治療法:手術または放射線療法に並行して薬物療法を行う。(ホルモン受容体陽性の場合はホルモン療法単独、それ以外の場合は化学療法が適応となるケースが多い。)
- 5年後の生存率:96.63%
「ステージ2」
- 進行度:一般に早期乳がんは「ステージ1」だが、5年後の生存率は「ステージ2」でも早期といえるほど高い。
- 治療法:「ステージ1」と基本的に同じだが、乳房切除(全摘)のケースが多くなる。
- 5年後の生存率:90.93%
「ステージ3」
- 進行度:がん細胞の増殖が比較的に進行した状態で、腫瘍のサイズも大きく、リンパ節への転移も多い。
- 治療法:治療は、「ステージ1・2」と同様だが、放射線療法と化学療法を併用するケースがほとんどであり、手術も乳房切除(全摘)が多い。
- 5年後の生存率:72.48%
「ステージ4」
- 進行度:転移性の乳がん
- 治療法:薬物療法(抗がん剤が中心、ホルモン療法)が中心であり、がんの転移がひどいために手術の適応は限定されてしまう。
- 5年後の生存率:42.65%
乳がんの最新治療薬とは?
「乳がん」の治療は通常、①手術 ②薬物療法(化学療法(抗がん剤)・ホルモン療法(内分泌療法)・分子標的療法) ③放射線療法の3本の柱で行なわれます。
しかし、「若年性乳がん」の場合は、ホルモン療法や分子標的療法が効かないケース(トリプルネガティブ)が、多いと言われています。
しかしながら、化学治療は、日進月歩で新薬もたくさん開発され、例えば、次のような新薬も開発されています。(日本未認可を含む)
PARP阻害剤
がん抑制遺伝子の一種であるBRCA(breast cancer susceptibility gene)の変異細胞に「PARP阻害剤」が作用すると、がん細胞のDAN修復機能が作用しなくなり、がん細胞が死滅すると考えられています。
この薬は、日本では未認可ですが、遺伝子の変異を持った「遺伝性乳がん」に対しての効果が期待され、さらなる研究が続けられています。
血管新生阻害薬
「がん細胞」が、成長(増殖・転移)するためにはヒトの体から栄養を摂取する必要があります。
このがん細胞に栄養を供給するプロセスは、「血管新生」と呼ばれています。
Bevacizumab (Avastin)(べバシズマブ(アバスチン))と呼ばれる、血管新生阻害薬は、進行性乳がんの治療への有効性を試す臨床試験が行われています。


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