乳がんや子宮がん、胃がんなどに幅広く使用されている抗がん剤のひとつに「タキソール」があります。
小林麻央さんも生前その薬特有の副作用「指先の痺れ」を緩和するために、お湯につけたビー玉を使ってマッサージしているとブログに綴られていました。
抗がん剤にはさまざまな種類があり、それぞれに特徴がありますが、今回は、「タキソール」の効能や副作用、作用機序、がんのステージや予後との関連性などについて分かりやすくまとめてみました。
目次
タキソール(パクリタキセル)とは?

「タキソール」は、ブリストル・マイヤーズ・スクイブ社が開発し、1992年にアメリカで卵巣がんの治療薬として認可された抗がん剤で、一般名を「パクリタキセル」(日本化学)と呼ばれています。
この薬はもともと卵巣がんの治療薬として開発されていますが、現在では、乳がん、肺がん、膀胱がん、前立腺がん、黒色腫、食道がん、カポジ肉腫などにも世界中で幅広く使用されています。
「タキソール」は、*「微小管阻害薬」の中で、「タキサン系」に分類されるイチイ科の植物であるヨーロッパイチイの枝葉から単離された有効成分「パクリタキセル」(paclitaxel)を含有しています。
*「微小管阻害薬」とは、がん細胞が分裂する時に必要な微小管という部分の働きを阻害することによって、がん細胞の増殖を抑制するタイプの抗がん剤のこと。
「タキソール」は通常、点滴によって投与されますが、「タキソール」には刺激性があり、静脈の炎症を引き起こすことがあります。
「タキソール」の成分や添加剤が原因と考えられるアレルギー症状が多数報告されており、予防のために、抗アレルギー剤が前もって投与されます。
添加剤として使われている無水アルコールや抗アレルギー薬(クロールトリメトン)の作用のために眠気が起きる場合があるので、点滴当日は車などの運転を避ける必要があります。
タキソールの作用機序
「タキソール」は、上述したように「微小管阻害薬」に分類されますが、どういう仕組みで、がん細胞の増殖を叩くのかについて少し詳しく説明します。
まず、「微小管阻害薬」の微小管とは、細胞の中にある直径約25nm(ナノメートル)の筒状の線維(下図)のことです。

〈都城工業高等専門学校 物質工学科 HPより引用〉
細胞が分裂するとき、細胞は自らのDNAをコピーした後に2つに分裂します。
そして、この際に糸状の紡錘糸(微小管)が、元の染色体と新しい染色体を引き離す役割を担います。
このように細胞分裂は「微小管」が正常に働くことで行われますので、「微小管」の働きを阻害することができれば細胞は分裂できなくなってしまいます。
「タキサン系」の「微小管阻害薬」である「タキソール」は、植物からの抽出された毒性の強い成分(植物アルカロイド)の作用によって、細胞分裂の際に脱重合が出来ないように阻害して重合の状態を保ちます。
*細胞(がん細胞含む)が分裂する際に、微小管は束になる(重合する)必要があり、その後、細胞分裂が終わる際には、再びバラバラに戻ります(脱重合)。(下図)

しかし、「タキソール」を投与された、がん細胞は、細胞分裂の終わりに脱重合できず重合した状態が続くため、がん細胞は細胞分裂が完了出来ずに、死滅することになります。
しかし、いずれの抗がん剤も「毒を持って毒を制す」のが、作用の基本となるために、他の正常な細胞にもダメージを与えてしまうことになります。
つまり、「タキソール」にも他の「抗がん剤」同様に多くの副作用があります・・・
タキソールの副作用と対策

「タキソール」の使用中に記載されている全ての副作用を経験することは稀(まれ)で、以下の留意点が挙げられています・・・
- 多くの場合において副作用の発症と持続時間の予測が可能。
- タキソールの副作用のほとんどは治療が完了した後に消える。
- 副作用を緩和または予防するために多くの方法がある。
- 副作用の重さと薬の効果との間に相関関係はない。
- 副作用とその重さは投薬の量と頻度によって変わる。
次に挙げるタキソールの副作用は、30%以上の割合で発生すると言われています。
白血球減少
白血球は免疫に関係し、体内へ細菌が入り込まないようにする血液の成分で、これが減少すると、感染症、発熱などのリスクが増加します。
一般的に「タキソール」などの抗がん剤を注射してから1~2週間後に白血球の数が少なくなり、やがて回復していくと言われています。
脱毛
脱毛は、多くの抗がん剤で見られる副作用ですが、「タキソール」の場合は投与開始から2~3週目に出
現し、投与期間中は脱毛症状が継続しますが、治療を終了して 約2ヶ月頃から回復し始めると言われています。
脱毛対策
脱毛症状から回復してくるまでの間は、髪の毛をショートにして医療用のかつらやスカーフなどを着用する。
洗髪の時は低刺激性のシャンプーを使用して、外出する時は紫外線を避けるため帽子をかぶることがすすめられています。
末梢神経障害(手足のしびれやうずき)
「タキソール」を投与される方の50~60%が手足のしびれの症状を感じると言われています。
症状が現れる時期には個人差があり、多くの方は「タキソール」の投与を始めて5~6回目から症状を感じる方が多いと言われています。
症状は投与の回数を重ねるたびに重くなる場合もあり、チクチクした痛みや焼けるような痛みを感じることもあります。
しびれの症状は、手袋や靴下を着用する範囲(手袋靴下型)に起こることが多いと言われ、手指を使った細かい作業がし辛くなったり、歩行困難になる場合もあります。
通常はタキソールの投与を終了してから数ヶ月以内に症状が治まりますが、症状の重さによっては回復に1年以上かかることがあると言われています。
末梢神経障害(しびれ)対 策
しびれの症状が強い時は、タキソールの投薬量を減らしたり、使用を一時的に停止するなどの対策がとられる場合があります。
しびれの症状は、抗けいれん薬 やビタミン剤(B6) などを投与することによって軽減する可能性があり、痛みの症状を伴う場合には、鎮痛剤が用いられることがあります。
また、手足などの痛みがある部位をマッサージして血行改善すると症状が緩和する場合もあります。
その他の症状(比較的軽度なもの)
- 関節痛や筋肉痛(タキソールの使用後から2〜3日の間に経験し、通常数日以内に回復)
- 吐き気や嘔吐(軽度の)
- 下痢
- 口内炎
上記の副作用より頻度の少ない症状として・・・
- 足のむくれ(浮腫)
- 低血圧(点滴投与から3時間の間に発生)
- 爪の変化(変色・はがれ)
注意すべき症状(感染症と過敏症)
次のいずれかの症状が起きた場合は、直ちに医療従事者に連絡する必要があると言われています。
- 38°C以上の発熱、悪寒(感染症併発の可能性)
- 息切れ、喘鳴、呼吸困難、顔のむくみ、じんましん(アレルギー反応の可能性)
タキソールの使用とがんのステージ・予後(余命)との関連は?
「タキソール」の抗がん剤としての歴史は長く、世界中で使用され、その用途も幅広く、乳がんの術前、術後治療・転移治療・再発治療のいずれにおいても使用されます。
通常、乳がんの治療は、がんが局所(乳管内)に留まっている場合、放射線療法やがんの切除などの局所的な治療が行なわれます。
しかし、がん細胞が乳管の周辺にまで広がっている場合、がんが血液やリンパ液の流れにのって転移している可能性があると考えられ、「抗がん剤治療」(タキソールなど)が選択されます。(~ステージ3)
また、手術前に「抗がん剤」を投与することによって乳がんを縮小させ、切除する範囲を少なくして、乳頭や乳輪を温存する目的にも「タキソール」は使用されています。(~ステージ2)
手術後の「タキソール」投与は、微小に転移して画像などて確認できないがん細胞を死滅させ、がんの再発を防ぐ目的で使用されます。(ステージ3~)
乳がんが再発・転移している場合、がんの進行を遅らせたり、症状を緩和する目的でも「タキソール」は使用されます。(ステージ4)
上記のように「タキソール」は非常に広範囲に使用されていることから、「タキソール」の使用と「がんのステージ」・「予後(余命)」との相関関係は特にないと考えられますが、最寄りの医師や薬剤師にご相談されることをおすすめします。


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